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クラス ×イト
第10章 せッきン 【藍山栞2】
 こんな私はおよそ私らしくはない。乾くんに話しかけるその話題で、必死に頭を悩ませているだなんて……。

「……」

 ともかくそれならば、本や小説の話題が無難。だけど以前に話しかけられた時には、私はつい彼の小説のことを、暗に示唆してしまっている。やはりそこに話が及ぶのは、避けたい……。

 でもそれ以外で、私が話せることなんて……すぐには思いつきそうもなかった。だったら、年頃の男の子が興味のありそうなことで……。

 そう考えた時、私は深く考える前に、彼に話しかけてしまった。

「乾くんは――」

「あ、うん。なに?」

「――自慰とか、する?」

「G……?」

 そう言って宙を見つめた乾くんに、私は再度明快な言葉で言い直す。

「オナニーのこと」

「おっ……なっ、に……!?」

「……」

 乾くんの反応を見るまでもなく、よく考えれば私にだってわかった筈だ。いくら興味がある話題だとしても、およそ男女間で交わす会話としては不適切過ぎるということ。

 そして、乾くんは頭を掻きながら、口籠っている。

「ハハ……僕は、あんまり……というか。し、しない方かな……なんて」

「そう……私はたまに、してる」

 貴方の小説を読みながら……。それはもちろん、内緒だけども。

「え……!」

「いいの、ごめんなさい。今の――忘れて」

「うんん、ぜ、全然!」

「……」

 慣れないことは、するものではないのだろう。

 結局は微妙な雰囲気のまま、私たちは去河くんの家へと到着していた。
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