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クラス ×イト
第11章 マえぶレ 【乾英太3】
 既に開始されている、朝のHR――。

 教室の後ろのドアを開けると、僕と市原さんはソロリと中に忍び入る。

 すると――


「乾、市原――お前ら仲良く、朝帰りか?」

 担任の北村先生は冷静な顔をしてそう言いながらも、淡々と出席簿をチェックした。

 その言葉を受け、教室内にはクスクスとした笑い声。只でさえ、そんな雰囲気なのに――

「アハ、すいません。昨夜はつい、はりきっちゃって」

 市原さんがそんな返しをするものだから、教室中が僕らを冷かすようにしてドッと沸く。

「……」

 僕は真っ赤になった顔を俯かせながら、急いで自分の席に座った。そうして騒ぎが鎮まるのを待ち、僕はそっと藍山さんの方を見る。

 背筋を伸ばし、静かに前を見つめている、藍山さん。それは何時もと同じ横顔だったけど、心なしか少しツンとしているようにも感じた。

 それにしても……。市原さんも大概だけど、北村先生もどうなのさ。そりゃ冗談なのはわかるけども、「朝帰り」なんて教師が生徒に使う言葉として、配慮に欠けているんじゃないのかな。

 北村慶吾先生は、国語科の教師で僕らのクラスの担任。年齢は確か三十くらいで、その佇まいは僕らからすれば、当然ながら大人の男の人って雰囲気だった。

 決して熱心なタイプではなく、だけどクールとも違う。何か自然体でそんな処が、大人の余裕みたいなものを漂わせていた。割と生徒にも受けが良く、特に一部の女子には慕われてるみたいだけど……。


「……」

 そんなことを念頭に置きながら、僕はふと想像してみていた。

 五年前――今の僕らと同じ歳だった、藍山さんのお姉さん。その姿を今の藍山さんに、重ねて合わせたとして。今より若い二十代半ばだった北村先生と――その二人が恋に落ちる場面を。

 あり得なくは……ないの、かな? 僕はふと、そんな風に感じた。
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