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クラス ×イト
第11章 マえぶレ 【乾英太3】
「この本を借りた時――ページの端に『折り目』があるって、僕がそう言ったの憶えている?」
「うん……」
「きっと栞の代わりとして、ページを折りながら読み進めていたんだ、と――最初はそう考えて、大して気にも留めてなかったんだけど……」
そう話しながら、僕は実際に『折り目』のついている箇所を幾つか、藍山さんに示した。
「でも、それにしては妙なんだ。折ってある処の間隔がマチマチなのは、いいとしても。ほら、ここなんか見開きのページの左右が両方とも折られている。栞としてそうしていたのなら、こんな折り方はしないと思ったんだ。そしてページによっては上の方が折られていたり、逆に下の方が折られていたりしてる……」
「……」
藍山さんは、じっと僕の話に耳を傾けている。
「だから僕は、この『折り目』が意図的なものだと、そう感じた」
「意図……楓姉さんの……?」
と、ボソッと呟く。
その横顔を見つめてから、僕は彼女に『答え』に繋がる核心部分を伝えた。
「『折り目』は全て伸ばしてあるけど……それを折り跡に沿うように、折り直す。そしたら、そのページの『折り目』から、一番近い一文字を拾い上げるんだ。例えばここなら、ページの上が折られてて……その端の行の文頭が『晴天の空は――』だから『せ』……そうやって、上巻の初めから順に……読んで、いくと……」
最初はパズルの解答を示すような、そんな昂揚感も片隅にはあったのかもしれない。
だけど、ついに全てを示し終えて――。
「……」
そして、藍山さんは僕の説明に倣って、その一文字一文字を紡ぎ始めてゆく。
それは――お姉さんが残した――最期のメッセージ。
僕は息も詰まる想いで――その藍山さんの姿を、その隣でじっと眺めていた。