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クラス ×イト
第14章 カイごう 【乾英太4】
「……」
自ら話そうと生徒を前にしながら、北村先生はなかなか口を開かない。それを不思議に思うと尚更、一同は固唾を呑むように先生に注目していた。
すると――
「そんなに、見るなよ」
先生は照れたようにそう言って、一部の生徒の笑いを誘った。そうして僅かに緩和した空気の中、先生はようやくその話を始める。
「今更、こんなことを言うのもどうかと思うが……皆も知っての通り、俺はかなり適当な教師だ。行き届かない面も多々あり。このクラスの担任として、お前ら一人一人のことをどれだけ把握できてるかと言えば、まるで自信なんてない。まあ最も――たった一人の大人が、この三十三人を等しく理解しようと考えるとしたら、それは自惚れに過ぎない。少なくとも俺はお前らのことを、軽んじたりはしてないからな」
「……?」
何故、急にそんなことを……? 始めは、ここに居る多くがそう感じただろう。何処か脱力し飄々としてる先生にしては、それはおよそ似つかわしくない言葉と振る舞いだった。
だけど話を聞く内に僕には、その真意が徐々に透け出すような……そんな感覚があった。
先生の話は続く。
「それでも――無力な俺にも確実にできることは、ある。お前たちの話に、聞く耳を持つこと。その姿勢だけは、常に保ってきたつもりだ。もちろん、それも胸を張って言える程のことじゃない。つまりは……お前たちの方から話してもらわないと、何もわかってやれない――そう認めるようなものだからな」
先生は一旦そこで間を取り、もう一度教室を見渡してから、こう言った。
「そんな訳で……だ。もし、どうしようもないくらい悩んだ時があれば、俺に話してみるのも一つの手だぞ。俺は改めて、それをお前たちに伝えておきたかった」
「……」
そう話す先生を見つめながら――
僕の頭の中で――まだ確実でない、全く別の二つの事象。それがゆっくりと、重なり始めている。