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クラス ×イト
第15章 じゅバく 【赤緒礼華】
 私は自分の母親のことを、良く知らなかった。薄らと脳裏に浮かぶのは、若くて綺麗なその面影。中でも――


『礼華ちゃん……』


 私の名を呼んで、向けた微笑み。その顔と声を――その時の嬉しかった気持ちと共に。幼き日の私から辛うじて受け継いだのは、たったのそれだけ。

 その後は――

「お前の母親はなあ。俺を捨て、若い男と何処かに――消えやがったんだ」

 酒に呑まれた父がたまに話すのは、決まってそんな悪態だ。その短い言葉から、私は何かを察することしか許されてはいない。


 父は若い時に独立し、小さいながらも町工場を経営していた。私が生まれた頃は、携帯電話関連の部品の受注が入り、夜も昼もなく忙しく働いていたという。

 その甲斐もあり業績が上向くと、設備投資を果たし工場も大きくした。最初は数人だった社員も、一時は三十人まで増えていった。

 でも、そんな上昇気流が長く続くことは、なかったらしく。工場を大きくした途端に、大手企業からの受注が激減。設備投資をした賭けが裏目に出ると、一気にその経営を圧迫する形になる。

 結果、新しい工場を手放した父。元の規模への縮小を、余儀なくされた。

 私の母親が父の元を去ったのも、そんな頃。子供だった私が把握できたのは、そんな程度の事情に過ぎない。

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