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クラス ×イト
第15章 じゅバく 【赤緒礼華】
だから私が見てきたのは、家の近くの小さな工場で必死に働く、父の姿だ。
父は再び、工場を大きくしようと躍起だったのだろう。後になって考えれば、自分を捨てた妻を見返そうという気持ちが、そうさせていたのかもしれない。
でもそれは、まだ子供だった私の知る処ではなくて。只、小さな工場で懸命に働く父の姿を、私は決して嫌いではなかった。
私は至って普通の子――として、成長していたと思う。何が普通かなんて、そんな疑問さえ持つこともなく。だからそんな私は、ごく普通の女の子であった筈だ。
そして、私も中学生になり。父が次第に、アルコールに溺れ始めていたのは、そんな頃だった。
工場の経営が思わしくないのは、私も何となくは感じていた――けれど。
その時には既に、父は方々に借金を作っていたらしく。それを私が知ることとなったのは、あの男が家を訪れた時だ。
その日、学校から帰った私は――リビングで誰かと話している、父の声を聴いた。
「そこを、何とか……。もう白岩さんの処しか、他に当てなんてないんだ!」
父の取り乱した様子を察し、私はドアを細く開くと、廊下から部屋の中を窺う。
「この家は、ともかく。あの工場はねえ……。油臭い機械なんて、とても金にはなりませんよ。赤緒さん――アンタの借金をウチで引き受けるには、他に何か決め手が必要になるでしょう」
そこに見えたのは、黒いスーツの背中。ソファーに仰け反るように背を凭れた、父が『白岩』と呼んだその男は――煙草の煙を、フッと父に吹きかけた。
父は再び、工場を大きくしようと躍起だったのだろう。後になって考えれば、自分を捨てた妻を見返そうという気持ちが、そうさせていたのかもしれない。
でもそれは、まだ子供だった私の知る処ではなくて。只、小さな工場で懸命に働く父の姿を、私は決して嫌いではなかった。
私は至って普通の子――として、成長していたと思う。何が普通かなんて、そんな疑問さえ持つこともなく。だからそんな私は、ごく普通の女の子であった筈だ。
そして、私も中学生になり。父が次第に、アルコールに溺れ始めていたのは、そんな頃だった。
工場の経営が思わしくないのは、私も何となくは感じていた――けれど。
その時には既に、父は方々に借金を作っていたらしく。それを私が知ることとなったのは、あの男が家を訪れた時だ。
その日、学校から帰った私は――リビングで誰かと話している、父の声を聴いた。
「そこを、何とか……。もう白岩さんの処しか、他に当てなんてないんだ!」
父の取り乱した様子を察し、私はドアを細く開くと、廊下から部屋の中を窺う。
「この家は、ともかく。あの工場はねえ……。油臭い機械なんて、とても金にはなりませんよ。赤緒さん――アンタの借金をウチで引き受けるには、他に何か決め手が必要になるでしょう」
そこに見えたのは、黒いスーツの背中。ソファーに仰け反るように背を凭れた、父が『白岩』と呼んだその男は――煙草の煙を、フッと父に吹きかけた。