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クラス ×イト
第15章 じゅバく 【赤緒礼華】

「あの店で、待ってる筈だ」

 停車した車から降りると、白岩さんが指差したのはカフェだった。

「……」

 そこで私を待つという人物を何気に頭に描きながらも、私はふと車の傍らに立つ白岩さんの方を振り返った。

「どうした? 早く、行くといい」

「私……は?」

 そう口籠る私を見ると――

「そうか……挨拶が、まだだったな」

 白岩さんは、ふっと微笑み、そして事も無げに言う。


「サヨウナラ――元気でな」


「……」


 それは、何時か耳にしたのと、同じセリフ。その時から、呪縛を受ける私の日々が始まり。そして今、終わろうとしているのか……。

 たぶん、私はこの時を待ち望んでいた――筈。なのに、何故――? 心には釈然とはし難い、行方の知れない想いだけが募る。

 失ったものは、決して戻らない。私はそれを知って、しまっている。けれども、それだけとも、何かが違ってる……。

 そんな微妙な心理を僅かでも紐解こうとして、私は白岩さんに訊ねた。

「あの夜、もし私が逃げたら……白岩さんは、どうするつもりだった、の?」

 すると、白岩さんは上着のポケットから煙草を取り出し、それを咥え火を灯す。

「どうかな? きっと、困って頭を抱えたんじゃないか」

「それだけ?」

「フフ――礼華、憶えておくといい。ズルい大人ってものは、余計な言葉は極力、口にしない生き物なんだよ。だから今、俺は――それ以上のことは言わない」

「そう……」

 白岩という男がいたから、私はあんな目に遭っている。それでも、私の憎しみが彼に向かうことは、ついになかった。

 あの夜、恐らく白岩さんは、私が逃げないことを知っていたのだろう。その上で、ああした理由を追い求めれば――その先が、今の言葉へと行き着く。


 それは曖昧であり、だからこそ――ズルいの、だった。
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