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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
「……」
喜嶋くんのお見舞いに行くという、乾くんと別れて、一人。私はまだ重い足で、廊下を進む。
あれで、良かったの……? ――と、自問して。少しだけ、頬に赤みが差すような感覚。
私が読んでいた、乾くんの小説。それも終わりに近づいているのだと、わかっていたから。その上で私は彼に、あの様な不躾な『お願い』をしてる。
何処かの途中で漂いながら、そんな私にとって唯一、希望らしきものと感じていたもの。彼の小説――その物語を、私は後の自分にとっても拠り所としたかった。
そうあろうとしても、未だ『好き』という想いに至ることはできずに……。けれど、只ならぬ心の律動に私なりに、応じた――それが、結果。
仮に、乾くんが自身の小説で、主人公とヒロインを結びつけるのなら、私も彼と結ばれることに何の迷いもない。
否――迷いたくないから、私はそれに準ずることに、しようと――している?
「……」
結局は、これまでの私に確かな物など、一つだってないから。宙ぶらりんな私は、何処かを基準としなければ、無くなってしまいそうで……。
私はそれが、怖かったのかも。ううん……はっきりと明確に、怖いのだと、認めた。
けれど――ともかく、今は。
コン、コン……。
私は辿り着いていた扉に、弱々しくノックの音を鳴らす。扉の上には『進路指導室』のプレート。程無く、その扉が開かれて――いる。
「来たのか……まあ、入れ」
「失礼、します……」
迎えた北村先生に促され、私はその中へと足を踏み入れた。
「……!」
その刹那、軽い息苦しさに苛まれ、少しだけ頭がクラリと――する。