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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
北村先生は淡々として、語り始めていた。
「大学を出て教師になった、が……。俺は元々、人に教えを説くという柄でもなく。だから、教師を目指した訳でもない。この高校に赴任して、数年があっという間に過ぎる。しかし、その頃の俺は、まだ――作家になりたいという青臭い想いを、捨て切れずにいた」
私はまだ呆然として、それでも話に耳を傾けてる。
「大学時代の仲間に、出版社の編集になった男がいてな。ある時――俺は恥を忍び、密かに書き溜めた原稿を、その男に見せた。そんな……伝に縋るような真似をして、何とか出版にまで漕ぎつけたのが――その二冊の本」
「……」
「だが、それも――結果的には自己満足だ。ほんの僅か……単に作家気分を味わう、と。だがそれも、やがて覚めた。未熟で有り触れた才能が、世間に届く筈もなく。後に自ら読み返して、自分でも嫌という程に……それは、痛感したよ」
そんな風に話す先生は、何時もより人間臭いのだと、私は思う。
揺ぎ無く見える大人たちは――しかし、初めから大人ではなく。そんな当然の成り立を、その時の先生の中に見た、気がしてた。
けれど――も。
「藍山も、コレを読んでいるのなら――同じように、感じたんじゃないか?」
「いえ……私、は……」
首を横に振った私を、先生は自嘲気味の笑みを零し。
「そうだ……な。お前が知りたいのは、こんな話では――なく」
それから、打って変わった真剣な顔を――私に向けた。
「藍山楓――俺の知る限りの、彼女の話を――始めようか」
「――!」