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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
「――!」
階段の上から、自然と見下ろした――其処に。
廊下に落ちた本を拾い上げて、その表紙をポンポンと軽く叩く――その声の主。
そうしてから彼は、私たちの方へ視線を差し向けて、また訊く。
「この本を落としたの――お前らか?」
「……」
それは、現国の――北村先生、だった。
幾度かの授業を通じて、私も顔や名は知ってはいた。まだ若い先生ではあるが、些かぶっきらぼうで決して馴染みやすいタイプとは言い難い。それがそれまで、私が抱いていた印象である。
そんな先生が、今も感情の読めないポーカーフェイスで、静かに私たちの反応を窺っていた。
登場した教師のその態度に、私に迫ろうとした二人も、やや困惑した様子を見せる。
「あ、ああ……その本は……この子の、ですから」
「そうそう……。じゃあ、と。俺たちは、これで失礼しまーす」
そんな風に言うと、二人はその場を私に預けるようにして、そそくさと逃れて行った。
「……」
そうして残された私は、黙ってその場に佇み。
先生はゆっくりと階段を昇り、そんな私の前へと立つ。
近くで見据えられ、少しあたふたとする、私。
「あ……あの」
本を落としたのは、私ではない――と。とりあえず、そう断ろうとしていたのは、先生にそのことを咎められるのだと、そう感じていたから……。
だけど――
「えーっと……お前、確か『1―C』の――?」
「あっ……藍山……楓、です」
「ああ、そうだよ。藍山だったな」
「は、はい……」
何処か長閑な雰囲気の人だな――と、私は思う。
初めて言葉を交わしながら、不思議と気持ちが和らいでゆく感覚が生じていた。