この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
結果的にそれは、初めであり、始まりの一歩だった。
だけど、如何に私が初心な娘である自覚があろうとも。最初はそこまで、この微かな胸のときめきに傾倒しようというものではなかった。
私は未だ十五であり、相手は十も年上の大人の人。それ以前に二人には、生徒であり教師であるという明確な立場の差異が存在。
その部分を見失うにしては、私たちの出会いはあまりに細やか過ぎるのだった。
その上、只でさえ引っ込み思案な自分である。それから暫くの間は、遠くからその姿を眺めることで、自分の中に生じかけた仄かな想いを確認するに留まっている。
「……」
教壇に立つ北村先生のことを時折、呆然と見つめたりしている、私。
その落ち着いた佇まいも、板書している背中も、教科書を朗読する声も。教室という名の同じ空間に居るのだという事実が、私を一定に満たしてくれた。
これだけで、いいの……。だって、その先は、ないのだから……。
自然とその様に線引きをしているのだと、私は気がつく。だけど、その境界を意識していることが、既に明らかな証拠なのだと――。
否応なく私が思い知るまでに、そう長い時間を必要とはしなかった。