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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》

 結果的にそれは、初めであり、始まりの一歩だった。

 だけど、如何に私が初心な娘である自覚があろうとも。最初はそこまで、この微かな胸のときめきに傾倒しようというものではなかった。

 私は未だ十五であり、相手は十も年上の大人の人。それ以前に二人には、生徒であり教師であるという明確な立場の差異が存在。

 その部分を見失うにしては、私たちの出会いはあまりに細やか過ぎるのだった。

 その上、只でさえ引っ込み思案な自分である。それから暫くの間は、遠くからその姿を眺めることで、自分の中に生じかけた仄かな想いを確認するに留まっている。


「……」

 教壇に立つ北村先生のことを時折、呆然と見つめたりしている、私。

 その落ち着いた佇まいも、板書している背中も、教科書を朗読する声も。教室という名の同じ空間に居るのだという事実が、私を一定に満たしてくれた。


 これだけで、いいの……。だって、その先は、ないのだから……。


 自然とその様に線引きをしているのだと、私は気がつく。だけど、その境界を意識していることが、既に明らかな証拠なのだと――。


 否応なく私が思い知るまでに、そう長い時間を必要とはしなかった。
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