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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
決して飾り気はないが、ある意味ではクール。飄々と惚けているかのように見えて、時折ややシニカルと思しきジョークを口にしたりする。
ともすれば無粋でもあり、取りつき難いと感じられていたであろう、若い国語科の教師。北村慶吾先生は、一部の女生徒たちの間で密かな人気を獲得していたようだった。
新入生であった私のクラスに於いても、その変化の兆候は見られている。
例えば今も、そう。現国の授業が終わった後。複数の女子たちが、素早く教壇の先生を囲むと、親しげに話しかけていた。
「ねえねえ、北村先生って――彼女とかいるんですか?」
「何だ、突然。いるように、見えるのか?」
「ええっ、全然!」
「そう思うなら、ほっとけよ」
痛そうに顔を顰める先生が、彼女たちの笑いを誘う。
「……」
そんな様子を、私は離れた処から眺めると――
「――ん?」
「――!」
不意に先生の目線が合い。私はふいっと、顔を背けていた。
この感覚は、なんだろう――?
自分の中に湧き立つ感情の正体が、私には解らない。解るのは、それが愉快ではないのだと、いうことだけ……。
気軽に話しかけたり、馴れ馴れしく側に纏わりついたり、してる。そんな真似ができる彼女たちのことが、ほんの少しだけ羨ましいのだと認めていた。
それでも私には、やはり無理なのだと承知してる。先生のこと、最初に見つけたのは、私なのに……。なんて、何処までも独り善がりに、私は焦れているのだった。
「……」
そんな自分が、嫌だと感じても。私は私の中で肥大してゆくこの想いには、嘘はつきたくはなかった。
何故ならそれは、私の中より生じていたもの。それ故この気持ちは、私が私である所以なのだと――そう考えてしまっているの、だから。