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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
「読むのも返すのも、何時でもいいからな」
北村先生はそう告げて、私にその本を渡すと、その場から離れて行く。
あ……と、思わず背に届かない手を伸ばしたのは、その真意を探れずに終わったからなのか……。
結局、廊下の角に消えてゆくその後姿を見送り、私は暫くその場に立ち竦んだでいた。
「……」
でも、解ってる。真意などと呼べる程のものは、恐らく先生の中には――ない。
それは言葉通り。珍しく読書に勤しむ一生徒に、僅かに施したに過ぎないのだった。客観的に見たなら、たったのそれだけのことであろう。
だけど――それでもいいと、私は、思っていた。
藍山楓という、この私を気にかけて、この本を渡してくれた事実。それだけで、良かった。それだけでも、今は大事なことだから……。
そして、私は少なくとも。先生が好きだという、この本を読むことができる。そして読み終えて何れは、それを返す機会だって訪れるのだ。
もしかしたら、感想を語り合うことだって……。そんな、些細で密かな期待を――胸にする。
私は自分の高まり続ける、この気持ちに昂揚しながらも――それでいて、そこはかとなく怖くもあった。