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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》

 新入生だった私も、気がつけば二年生へと進級していた――そんな頃。

 その一年の間に、私と北村先生との間に何かあったかと聞かれれば、語れるほどエピソードは、ほぼない。

 只、それでも時折――私は職員室へと、先生を訪ね行った。

 もちろん私に、理由もなくそうできる勇気がある筈もなく。やはりその拠り所と言うのなら、それは本なのであった。

 先生を訊ねた私は、物欲しそうな子供のように、必ずこう口にしている。


「また何か、お勧めの本があれば……私、読んでみたいです」


 先生は何時も「ああ、いいよ」と、何時でも快く私に本を貸してくれた。あの時に借りた一冊の本が、今でも私と先生に微かな繋がりを齎している。

 そうして得た新たな本を、私は大抵三日ほどで読み終えてしまうのだ。だけど、そう度々訪れるのは、先生に迷惑なのではと思うから。私が先生を訪ねて行くのは、それよりひと月の間を置いた後である。

 その間に私は何度も繰り返し、借りたその本を読み。返す際、先生とその内容について言葉を交わす場面を夢想しているのだった。

 私の淡い想いを満たすのに、この頃はまだ、それで十分なのだと考えていた。


 しかし、ひっそりとそんなことを繰り返していた、その年の夏休みの――ある日。

 少なくとも私にとって、決して些細ではない出来事が……あった。
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