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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
「ちょっと、通してください」
「あ……すいません」
思わず通路を塞いで立ち止まっていた私は、後ろから入って来た人に慌てて頭を下げる。
否応なく、この胸がドキドキしてしまう。其処には確かに北村先生が居て、学校以外でこの様に見かけるのは、初めてだから……。
それも、此処は私のお気に入りの場所。否、何処だろうと私の胸の高鳴りに、歯止めなんて利きはしないのだろう。だけど地味であっても自然と心浮き立つ空間にあって、偶然。先生と会えたことは、やはり特別なのだと――私は思いたかった。
先生は持参したであろうノートパソコンを前に、右手で頬杖をつくと何やら思慮してる様子。両目は瞑っているから当然、私には未だ気がついていない。
もしかしたら、居眠りしているのかも……。
私はその後方の席を気にしつつ、とりあえず自分が居た席に戻った。そして、ゆっくりと参考書やノートを鞄に仕舞いながら、先生が目を開けて私を見つけてくれたらいいのに――なんて、密かに期待している。
こんな時、クラスの快活な子だったら「先生、何してるの?」なんて、気軽に声をかけるのだろう、けど。この私にとって、それは無理な所業。
「……」
荷物を全て鞄に入れ、もう此処にいる理由を失っても、先生の様子は一向に変化は見られない。私はふうっとため息を一つ残して、席を立った。
大体、先生に見つけてもらって、その後で私はどうしようというのか……。挨拶を交わして「偶然ですね」とはにかんで、きっとそれでおしまいだ。
そもそも、私は何を期待しようというのか。自分の中にあるものさえ、推し量れてはいない。
ううん……それを、正しく認めることから、私は逃げているのだ。