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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
どうして、逃げるの……?
不意にそう自問すると共に、私は学習室を出ようとした処で、また足を止めていた。
「……」
その先に、ゴールがないと知って? そこを突き詰めても、辛い想いをする、から?
だけど、その癖――何もせずに何かを期待してるなんて、とても裏腹。
声すら、かけることができない、と。そんな自分のことを、しおらしく健気だと思い、私は酔っているのかもしれない。だとするなら、それだって打算だ。
ならば、いっそ正直に……。少なくとも声をかけるくらいした方が、寧ろ健全だと――私は、ふとそう考えるに至る。
恐らく、その全てが言い訳なのであろう。私の本心は結局、この偶然を見過ごすことをしたくなかった。そんな自分が酷く面倒なのだと、それだけは嫌なくらいに解っている。
私は踵を返すと通路を突き辺りまで進み、先生の背後まで歩み寄ってゆく。
「あ、あの……」
口から出た声はおよそ、人に話しかける音量ではなかった。先生は微動だにせず、私は只々困惑の渦中。
それでも周囲を少し気にして、今度は私なりに声を張った。
「あの、北村せんせ――」
「――ん?」
ビクッと肩を揺らした先生は、どうやら本当に眠っていたらしく。その拍子に同じくスリープ状態にあったパソコンが、その画面を灯した。
「――!」
それを自然と視界に留めていた私は、ワープロソフトにて書き綴っている文章が小説であるのだと、すぐに気がつく。