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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
一目でそうと思ったのも、日頃から本に親しんでいるからであったのか。ともかく――
北村先生が、小説……?
その事実を知り、私は不思議と胸に熱くなるものを感じる、と。たった今、先生に声をかけているの自分を、もう見失ってしまうのだ。
「なんだ、藍山か……」
それ故、振り向いて私を認めたその視線に対して、あまりに無防備となり。
「わ、私は――偶然。通りかかった、だけで。そしたらっ、先生が……いた、ので……」
慌てて声が裏返っただけなら、まだまし。しかし、学習室の最後列は明らかに『通りかかる場所』ではなく。私は発したばかりの言葉を、即座に消し去りたい気分になった。
でも、先生にとって、それは気に留めるほどのものではなく。
「その様子だと、此処へは、よく来てるようだな。家は近くなのか?」
「はい……すぐ近く。あ、近いといっても……歩けば、十分くらい……です」
「そうか」
私の回りくどい言い回しに対しても、涼しげに対応していた。
「あ、あの……」
浮足立ち早くも途切れそうな会話に、私だけが焦ると――
「先生は、此処で……何をしているんですか?」
口をついたのは、その様な不躾な問いなのである。別に言葉がそうだと言う訳ではなく、その時パソコンの画面を注視した、私の目線が不躾なのだ。
そして先生も、私がそれを見ていることに気がついている。
「ああ、俺はな――」
「いえ、別に何でも――」
期せずして踏み入った言葉を、私が急ぎ取り消そうとした時。
だけど先生は、少しだけバツが悪そうにしながらも――
「小説を、書いてる」
決して悪びれず、そう明かしてくれるのだった。