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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》

「あ、あ……せ……先生?」


 突然の感触に、私は――慌て、驚き、高鳴る――と。前方の席に座る数人の視線を受け、着火したストーブみたいに真っ赤な顔を前髪に隠す。とても、恥ずかしい……。

「藍山――急に、どうかしたのか?」

「べ、別に……どうも、しなくって」

「それなら、いいが……」

「……」

 もちろん先生を振り向くこともできずに、それでも一度この足が止まると、私はその場に佇むだけ……。

 先生の温度を左の手首に感じ。鼓動だけは確実に、その時のときめきの度合いを短いリズムで刻んでいた。もう少しそのままでいたのなら、心臓がどうにかなってしまいそう。

「ああ、すまなかったな――つい」

「いえ……」

 先生は詫びると、掴んでいた私の手をすっと解放。

 私はホッとしながらも、少しだけ心許なく感じているのだ。

 だけど――向けたままの背中に先生が与えていた言葉が、舞い上がる私の心と頭を冷やしてゆく。

「藍山――一応このことは、内緒にしてくれないか」

「え……? ああ……はい」

「もちろん、お前が言いふらすような生徒でないことは、わかってる。だが、周囲に知られると色々と面倒なんだよ」

「承知しました。私、絶対……誰にも言いませんから」

「そうだよな。わざわざ口止めのような真似をして、悪かった」

「……」

 今、すぐ近くに居ても。私と先生の距離は、何処までも――遠く離れて、いた。

 そう思い知ると、私はそのままとぼとぼと、歩を進めてる。

 そうして何かを諦めようとした私に、それでも先生は新たな何かを差し出した。


「万が一、のこと――なんだが」


「……?」


「この小説が、世に出ることがあるのなら。その時は、真っ先に――藍山に読んでもらうよ」


「――――!」


 その申し出に、また――私の心が、騒いだ。
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