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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
「私に……?」
「ああ、黙っていてくれる、その礼にもなるまいが……。お前が読みたいのなら、そうしてほしい」
「はい……」
私は、こくっと頷く。
「ハハハ、俺としては忘れてくれても構わない。これが出版される可能性など、現在の処――ほぼ皆無だからな」
自嘲気味に笑う先生を、ようやく見ると、私は言った。
「忘れません。私は、その日が来ることを――信じて、待ちます」
「そうか――ありがとう。俺も精々、その期待に応えるように足掻いてみるさ」
何もなかった私と先生の関係は、この時を以て変わる。秘密の共有とそこに携えられた約束は、私にそう感じさせるのに十分過ぎるものだった。
それを先生が、それをどう捉えていたのか――それが未知数であっても。それでも私は、それまで行き場のなかった想いを、奔らせようとするのだった。
その後も夏休みの間、私は連日この図書館へと足を運んでいる。しかし結局、北村先生が其処に姿を現すことはなかった。
私には、それが寂しくもあり。だけど、その淋しさで挫けることは、もうなかった。
先生との約束が、私を支えるから。それだけで私は、例え会えなくとも言葉を交わせなくとも、その想いを何処までも募らせてゆく――。
そうして一年の時が、過ぎた頃。私はついに、真新しい一冊の本を、この胸に抱くことになるのであった。