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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
「実は、な……」
「……?」
その時の北村先生は、珍しく言葉を言い淀んでいた。
その日、私は家に帰ると「ただいま」の言葉さえ忘れ、自分の部屋へと駆け込んでいる。
「お姉ちゃん?」
と、何やら話したげな栞の姿を気に止めることもなく、私は関心はある一点へと注がれていたのだ。
「……」
バタンと閉じたドアに背を凭れ、ふうっと深く呼吸。そうしてから、私は手にした鞄からその真新しい本を取り出す。
「約束は、憶えている。だが、勉強で忙しそうな藍山を見ると、話していいものかと少し迷ったよ」
「それじゃあ……?」
「ああ、ようやく形になった。藍山――俺の小説、読んでくれるか?」
先生にそれを問われ、私は急速に高鳴るものを隠せなかった。
「読みます。私――読みたい」
その前に詰め寄るようにして見上げると、私はまるで欲するようにそう告げている。
そして――今。
「……」
私は先生に渡されたその本を、ギュッとこの胸に抱くのだ。
それを読み、私の胸に去来するものは、果たして何だろうか。そして、私は其処に何を期待してると言うのだろう。
それまで繰り返した読書とは、全く違う前触れに頻りに心を揺らしながら……。
私はその夜、先生の綴った文字の一つ一つを愛でるようにして――それを、読み始めている。