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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
そして、次の朝――学校の廊下で。
「おはよう」
――!?
背後からのその声に肩をビクリと揺らして、私は身体を凍りつかせてしまった。
「藍山――どうかしたのか?」
振り向けさえしない私を、気遣うその声の主。それが、昨夜の私の頭の中を一杯にした人なのだと、十分過ぎるくらい私は意識して……。
「わ、私……は……」
「ん?」
「じゅ、授業がっ、あります、からっ」
私はそのまま顔さえ合わせずに、まるで逃げ込むように教室へ――。
始業までには、未だかなりの時間があり。別に北村先生が昨日の今日で、本の感想を求めようとする訳でもない。それを解っていながら、だけど昨日とは同じに様にはできない、私。
教室の自分の席に着くと、私は紅く染まった顔を伏せる。額をくっつけた机の天板が、ひんやりと冷たい。
そうしながら、私は予てよりあった私の先生に対する想いを――恋なのだと、思い知っているのだ。
他人よりすれば、何を今更と言われてしまうかもしれない。でも、それすらも気づけない私に、それを教えていたのは――昨夜に読んだ、あの小説である。
高校時代のその主人公の心理に自分を重ねて、私はもうそれを認めるしかなかった。
そして、私をそこに導いたのは、他ならぬ先生の綴った文章。つまり、先生により命を与えら名付けられた、それが――私、藍山楓の恋。
だけど、永く深層に潜ませながら、ようやく知った私は――最早、それが恋をも超えようとするまでに、膨らみつつあるのだと感じて――だから。
「怖い……」
私は期せずして密かに、その言葉を机の上に木霊させた。