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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
その日の一限目の数学の授業を、私の耳はボンヤリとしてその内容を脳裏へ伝達しようとは、しない。
『1+1=2』――恐らく、その約束事を覚えることから始まって、その後。切り立った崖の如く難解さを増してきたこの教科を、私は苦手としていた。
だけど、それは単に毛嫌いを続けた結果に過ぎず、ちゃんと向き合えばどうにかなるのでは、と。ふと私は、些か呑気に考えてしまう。
一つ一つの決め事を理解し、法則を身に着けそれを応用したなら、少なくとも高校で履修するレベルに於いて、その解答は明確に示される筈だ。
不意にそんなことを考えてしまうのも、私の中に明確に表すことのできない『恋』という難解なものの存在を、認めてしまっているから……。
例えば、入学した頃。私が初めて北村先生に抱いた好意に、『10』という数字を宛がった、として。
その二年後。その間に少なからず訪れた場面にあって、『交わした言葉』『借りた本』等をそこに『足して』或いは『かけて』――そうした時に、最初の『10』という数字は一体、幾つになってしまうのだろう。
それが『100』であり『1000』に達し、もっともっと気の遠くなるまでの数字で表すとしても、私にとってそれは腑に落ちるものではない。
更にそれは今――『先生の小説』により、飛躍的に高まり、深まり、拡がりゆこうとしていた。それは最早、数字とした仮定を粉々なまでに無意味と帰す。
だから、私は弾むように踊る心が、裏腹に――そこはかとなく、恐ろしい。
もう秘め続けることは、たぶんできない。否、今はできても明日、そうできる保証はなかった。
その正体を知った時には、既に御しきれぬ程までに、この瞬間も膨らみ続けているという――実感。
どうにかしなければと思いながら、何をどうしたらいいのか――まるで、解らない。
「……」
私はふと――視線を黒板より、窓の外へと移す。この日の天気は、はっきりとしない曇り空。
私の心と同じ……。それを見つめ私は、とりあえず当面――。
今夜も自分が、本の続きを読むのだろう、と――それだけは、解りきっていたのだった。
『1+1=2』――恐らく、その約束事を覚えることから始まって、その後。切り立った崖の如く難解さを増してきたこの教科を、私は苦手としていた。
だけど、それは単に毛嫌いを続けた結果に過ぎず、ちゃんと向き合えばどうにかなるのでは、と。ふと私は、些か呑気に考えてしまう。
一つ一つの決め事を理解し、法則を身に着けそれを応用したなら、少なくとも高校で履修するレベルに於いて、その解答は明確に示される筈だ。
不意にそんなことを考えてしまうのも、私の中に明確に表すことのできない『恋』という難解なものの存在を、認めてしまっているから……。
例えば、入学した頃。私が初めて北村先生に抱いた好意に、『10』という数字を宛がった、として。
その二年後。その間に少なからず訪れた場面にあって、『交わした言葉』『借りた本』等をそこに『足して』或いは『かけて』――そうした時に、最初の『10』という数字は一体、幾つになってしまうのだろう。
それが『100』であり『1000』に達し、もっともっと気の遠くなるまでの数字で表すとしても、私にとってそれは腑に落ちるものではない。
更にそれは今――『先生の小説』により、飛躍的に高まり、深まり、拡がりゆこうとしていた。それは最早、数字とした仮定を粉々なまでに無意味と帰す。
だから、私は弾むように踊る心が、裏腹に――そこはかとなく、恐ろしい。
もう秘め続けることは、たぶんできない。否、今はできても明日、そうできる保証はなかった。
その正体を知った時には、既に御しきれぬ程までに、この瞬間も膨らみ続けているという――実感。
どうにかしなければと思いながら、何をどうしたらいいのか――まるで、解らない。
「……」
私はふと――視線を黒板より、窓の外へと移す。この日の天気は、はっきりとしない曇り空。
私の心と同じ……。それを見つめ私は、とりあえず当面――。
今夜も自分が、本の続きを読むのだろう、と――それだけは、解りきっていたのだった。