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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》

 その夜――自分の部屋で、一人。


 恋に浮かれ、しかし高まる想いに反して、二人の行く末を阻む障壁。互いの親同士の確執が明らかとなり、その後。すれ違い、誤解が生じさせ、葛藤に苦しみ――彼女はその心に傷を負ったまま、彼と引き離されてゆく。閉ざした過去の想い、それが三章。


 現在に戻る、と。彼女が仕事に没頭した十年の訳に、彼との別れが起因しているとの心情を描き。しかし、今は相対する立場となると、かつての想いはやがて憎しみへ変わる。波乱を予感させる、その四章。


 やがて訪れたピンチに、彼女の心身は沈みゆく、が。その絶望の場面で、彼女に寄り添ったのは、他ならぬ彼。様々な感情を経たからこそ、二人は困難の渦中で以前よりも激しく、その愛を燃やす。周囲を顧みず疾走を始める、五章。


「……」


 私はそれまでを読み、昂揚し震える手で、また本を閉じる。

 本の中の二人は、想いを再燃させて……。だけど、それは真に結ばれるものと、果たしてなるの……か?

 私はその結末が気になりながらも、残る二章を読もうとはしない。でもその訳は、昨日とは違っていた。

 私は深い感情の移入を、既にすっかり果たしている。だから、彼女が報われることを、私は強く願った。

 その一方で、その願いが叶わないことを、酷く恐れてしまっている。それだから、読めない……。

 彼女は大人の女性であり、そこで語られる愛の姿も、当然ながら私の拙い想いとは違う――けれど。

 物語の中で、二人を隔てる様々な、もの。それを教師と生徒という、決して交わろうとしない自らの場面に、すり替えては――そして、焦がれているのだ。


 だから、心許なく。しかし何故、こんなにも不安、なのか……。


「……」


 私はじっと、その表紙を見つめて、考える。でも、ページを開かなければ、その意図が知れることは、ない。


 そこに記されたタイトルは――『現(うつつ)』。
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