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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
 次の日の――午後。


「――!」


 先の廊下を粛々と進む、その背中を私は――見つけた。そして、自然と身体の動きは止まり。でもそれに反するように、私の妄想は蠢くのである。

 前を歩く愛しい背中との、十メートル余りの隔て。その距離を詰めて、そこに抱きついてしまったとして、その後――一体、どう、なるの、だろう?

 物理的には、それを行うのは造作もなく。でも、決して私はそれを、しないのだし、できる訳もなかった。邪魔をするのは、何も世間の常識だけに留まるものではない……。

 だから私は、頭に描いた場面を恥じて、それを掻き消す。でもいっそ、そうしてしまいたい衝動が、私に中には確実に存在していた。


「……」


 結局、私は黙ってその後姿が去って行くのを、静かに見送る。その内に焦れたものを、ぶすぶすと不完全に燻らせ、ながら……。

 そんな自分が嫌いで、だけどこの想いはもう、手放せない――否、手放しなど、しない。

 全てが裏腹に思え、私は戸惑ってしまう、から。内に湧きあがる言葉だけは、鮮烈なものとして刻みつけようと――してる。

 そんな風にすら思うから、私はふと――こう考えるに至るのだ。

 一気に何かを果たせる筈もなく、それでも。この想いを言葉として伝えるくらいなら、構わないのでは――と。

 その後、砕けてしまう――それが当然の結果と思うのなら、尚更。ならば、私に失うものなど、初めからありは――しない。


「だけど……」


 私は廊下に佇み、不意に呟く。

 だけど――私はそんなにも、強くはなく。感情の行き場を見失うのは、やはり怖いことだと思えていた。


 でも、それなら――どうするの?


「――!」


 と、その自問への応えは、すぐに導かれた。勇気が足りないのなら、委ねてしまえばいい……。

 そう、私は自らの行動を――小説の結末へと、委ねようとしている。
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