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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
何をどう話していたのか、憶えてなどいない。私の隣に一つ間を開けて座る先生との距離とその空気を覚えながら、私は読んだ本の感想を伝えていた。
だけど、それは上辺を撫でた表現に終始していたに違いない。文章がどうだとか、展開がどうだなんて、私は最早その次元で先生の書いた物語を眺めてなどいなかった。
「うん……とても、参考になったよ」
何とか並べあげた私のお座なりな言葉を、それでも先生は静かにそれを受け止める。そして――
「足りないものなんて……書いた自分自身が嫌というほど、わかっているのさ。それでも、こうして読者の意見を聞けるのは、やはり幸せなことだと思っている。だから、藍山には心から感謝するよ」
「そんな……私なんて、全然……」
「本心だ。ありがとう、な」
それまでにになく支障な態度の先生は、私に微笑を向けて言った。
たぶん何時もの先生であったのなら「嘘じゃない。悪かったな」と、そう照れるのではないか。私はふとそう思うとと、この瞬間――少し近く、その存在を感じていた。
でも、未だ全然――それだけでは、何も変わっていない。
自ら「足りない」と話した先生の小説は、私にとって何一つ不足なんてなかった。それを読むことで更に高めたこの気持ちを、どうにかして――私、知って、ほしい。だけど……。
「……」
私は二人の間を隔てる、その空席を恨めしそうに見つめていた。