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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
北村先生は、自身の著書――その下巻を手に取る。そして、藍山栞と立ち戻った私に、ゆっくりと話を続けた。
「藍山楓が卒業した後――六月の半ばのことだ。梅雨の時期。雨が降りしきる中――俺はまだ真新しかったこの本を手にすると、藍山が待つ例の図書館へと向かって行った」
六月十五日――。楓姉さんの手帳から、私はその日付を知っている。
「……」
「俺は昂揚していた、と思う。先んじて書いた上巻部分だけでは、小説としてあまりに脆弱。編集から指摘されるまでもなく、それは自覚していた。だからこそ、ありきたりな上巻のラストを覆すこの下巻を、早く藍山に読ませたいと思った。身近にいてくれた、読者として……」
「その時……楓姉さんに……その本を?」
「そう、渡している」
「……」
今、先生が手にしているその下巻は――楓姉さんが希望した『続きの物語』とはならなかった……。
小説の彼女に自らを重ね、そこから勇気を得ていた、姉さん。
その想いは――その結末を経て、どの様なものに……なった?
でも、今はその前に……。
私は涙を拭い、先生に問うた。
「先生は解らない、そう言いました。でも、本当? 楓姉さんの気持ち、ホントに……解らなかったの、ですか……?」
「藍山楓が卒業した後――六月の半ばのことだ。梅雨の時期。雨が降りしきる中――俺はまだ真新しかったこの本を手にすると、藍山が待つ例の図書館へと向かって行った」
六月十五日――。楓姉さんの手帳から、私はその日付を知っている。
「……」
「俺は昂揚していた、と思う。先んじて書いた上巻部分だけでは、小説としてあまりに脆弱。編集から指摘されるまでもなく、それは自覚していた。だからこそ、ありきたりな上巻のラストを覆すこの下巻を、早く藍山に読ませたいと思った。身近にいてくれた、読者として……」
「その時……楓姉さんに……その本を?」
「そう、渡している」
「……」
今、先生が手にしているその下巻は――楓姉さんが希望した『続きの物語』とはならなかった……。
小説の彼女に自らを重ね、そこから勇気を得ていた、姉さん。
その想いは――その結末を経て、どの様なものに……なった?
でも、今はその前に……。
私は涙を拭い、先生に問うた。
「先生は解らない、そう言いました。でも、本当? 楓姉さんの気持ち、ホントに……解らなかったの、ですか……?」