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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》

「…………」


 それは長い沈黙であった。

 先生は静かに佇み机を見つめながら、そして迷っているようでもあり……。

 暫くそうしてから顔を上げると、先生は私を見据え、こう話していた。


「小説を書こうとした俺を……後押ししてくれた、人物がいる。大学時代の同期に編集者になった奴がいると、俺に引き合わせてくれたのも……彼女だった」

「彼女……?」

「ああ……俺は彼女と、当時……恋愛関係にあった」


「え……?」


 明かされたその事実に、私は急激に胸が締めつけられる想いが、してる。

 それは私の問いに対する、答えではないから……。だからこそ私はその意図に、残酷な結果を見越してしまうのだ。


「……」


 身体が、震えてゆくのが、わかる。けれど……それを訊かないで済ませる訳には、もう――いかない。

 私は上擦る声を、恐る恐る発した。

「か、楓姉さんは……それを……知って……?」

「話している。この本を渡した、その時に……」


「――!」


 それを聞いた瞬間――私の頭の中は、くらりと揺れてる。

 私がついさっきまで触れていたのは、楓姉さんの先生に対するその想い……確かに……なのに。

 それを自分のことのように感じて……例え、それが錯覚であっても……しても。

 そうでなくとも、私は藍山楓の――妹、なのだ。


 大好きだった、私の……お姉ちゃん、は……心の大部分を占めた希望を打ち砕かれ。その後に――望まない小説の結末を、読んでいた…………?


「…………」


 何を思えば、いいのか……すっかりと放心してしまっている、私。

 そんな心理の最中に、更なる言葉が降りかかっていた。


「藍山楓の気持ちに、気づいてなかったと言えば……それは、嘘になるのだろう。だが、それがどれ程のものなのか、俺はそれを量ろうとしてはいなかった。だから……俺がそれをを話したのも、彼女の気持ちを逸らそうとして……その一心だったように思う」


 私は只ならぬ感情を――憶え、て。


 ――ガタン!


 昂る感情の勢いのまま立ち上がると、弾みで倒れた椅子が激しく音を響かせていた。
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