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クラス ×イト
第17章 エぴローぐ
 そして、それとは――また、別。彼女には、こんな場面も訪れている。

 それは、小く古風な喫茶店の、その片隅の光景――。


「……」

 じっと俯く礼華には、その相手に話すべきことはない。否、言いたいことなら、明確に端的に、もう告げ終っているのだから……。

 後は相手の男が、それにどう応ずるのか。それも彼女にしてみれば最早、問題ではなかった。だから、只。一刻も早く、この場を去りたいと、それだけを考えていた。

 だが――向かいの席に座る男は、不機嫌な顔を更に歪めると、威圧的に礼華を睨みつける。


「もう、会えないとは――随分、勝手な言い分じゃないか。一体、どういうつもりで?」

「どうもこうも、ない。もう、こんなことは、しないと――私、決めたの」

「ふぅん……そう、か」

 言葉と裏腹に、男が納得していないのは、明らかだった。

 訪れた沈黙の時間が刻々と長引くにつれ、二人の間の空気がどんよりと重さを増してゆく。


「……」

 礼華はその雰囲気に耐えながら。後ろの席の客が新聞を読む、カサカサとしたその音に、何気に耳に傾けていた。

「金に困っていると泣きついたのは、誰だっけ? その意味で俺は、善意を以てその望みに応えてやっている。そんなつもりでいたんだけど、なぁ」

「……」

 その男の身勝手な言葉を目の当たりにするにつれ、礼華は改めて自分の愚かさを痛感している。

 援助交際――そんなものに、身を落としていた自分が、情けなく思えて。

「オイ――この俺が、訊いてるんだろ。何とか、言えよ」

 口を噤む礼華を見据え、男は態度だけに留まらず、その言葉にも苛立ちを滲ませた。

「私は、嫌なことを……終わらせたい。それだけ、なの……だから」

 ポツリと発した言葉に、男はカッとしている。しかし、その怒りを誤魔化すように、すぐに急ごしらえの笑みを浮かべ。

「そっか。よーく、わかったよ。嫌々と聞かされれば、俺だっていい気分はしない。了解した。これで、終わりとしよう。だが、その前に――」

 あっさりとした口調で、男は平然と続け様にこう言うのだった。


「俺がお前に支払った、金。全部、返してくれよ」


「――!」


 礼華は、唖然とし。

 その背後から――新聞を畳むパサッとした音が、聴こえた。
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