この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
クラス ×イト
第17章 エぴローぐ
【それから――僕たちは、名も知らぬ映画を共に、見つめる】
歩いて赴いた、シネマコンプレックス。
上映中の幾つかの映画の中から、それを選んだことに然したる理由などなかった。
それは地味そうでもあり、それでいて意味深なタイトルの邦画。
だが、二人は迷うことも言葉を交わすこともなく、その場所を選んだ。
其処は、一番小さなシアター。そして、客の姿も疎ら。
だがそれ故に、落ち着いて見つめることには、適していたのかもしれない。
特に、栞にとっては――そうだった。
「……」
映画も後半。スクリーンに投射されてゆく物語に、栞は自分でも覚えのないくらい、のめり込んでいることに気がついている。
やや難解でもあるそれを、正しく理解してもいないのだと思いつつも。けれど、栞は大いにその感受性を刺激されていた。
隣には、英太の鼓動。それは聴こえなくとも、確かに感じることができる。
それに、自分の鼓動を重ね。共に同じ物語を、見つめた。
そうしていると、栞の視界は――まるで、様々な色彩に彩られてゆく、みたいで……。
今までどれだけ本を読もうとも、得られなかった――感覚。
それは何も、活字と映像との相違ではなく。言うなれば、心の在りようの問題であった。
今の栞はもう、物語の最中に逃げ込もうとは、してはいない。