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クラス ×イト
第17章 エぴローぐ

【それから――僕たちは、名も知らぬ映画を共に、見つめる】



 歩いて赴いた、シネマコンプレックス。

 上映中の幾つかの映画の中から、それを選んだことに然したる理由などなかった。

 それは地味そうでもあり、それでいて意味深なタイトルの邦画。

 だが、二人は迷うことも言葉を交わすこともなく、その場所を選んだ。

 其処は、一番小さなシアター。そして、客の姿も疎ら。

 だがそれ故に、落ち着いて見つめることには、適していたのかもしれない。


 特に、栞にとっては――そうだった。


「……」


 映画も後半。スクリーンに投射されてゆく物語に、栞は自分でも覚えのないくらい、のめり込んでいることに気がついている。

 やや難解でもあるそれを、正しく理解してもいないのだと思いつつも。けれど、栞は大いにその感受性を刺激されていた。


 隣には、英太の鼓動。それは聴こえなくとも、確かに感じることができる。

 それに、自分の鼓動を重ね。共に同じ物語を、見つめた。


 そうしていると、栞の視界は――まるで、様々な色彩に彩られてゆく、みたいで……。


 今までどれだけ本を読もうとも、得られなかった――感覚。

 それは何も、活字と映像との相違ではなく。言うなれば、心の在りようの問題であった。


 今の栞はもう、物語の最中に逃げ込もうとは、してはいない。

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