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クラス ×イト
第5章 ほころビ 【乾英太2】
何て――言ったのかな?
咄嗟に訊き返すこともできずに、藍山さんはそのまま保健室から去っていた。
ううん、きっと大した意味で口にしたことじゃないのだろう。藍山さんが僕に伝えたいことなんて、あるとは思えない。
伝えたいのは僕だけ。それができないから、ひたすらそのジレンマを小説にぶつけているのであって……。
「ハハ――お前、蛇に睨まれた蛙だな」
両方の鼻の穴に綿を詰めている鼻声で、要二は僕のことを笑った。藍山さんを前にしてオドオドしてた僕を、滑稽に感じたみたい。
少しムッとしたけど、文句は言えなかった。だって要二は、僕のできないことをしていたから……。
僕が藍山さんのことを――そして、要二が佐倉先生を気にかけていることは、この前の昼休みに話して互いにわかっていた。
対象は違っていても、少なくともその時点に於いて僕たちの居た場所は同じ。ちょっとだけ好きな人のことを匂わせたりして、僕はそれだけのことに無邪気に昂揚していたんだと思う。
だけど要二はその想いを、既に相手に伝えていた。しかも授業の真っ最中、皆の前で――だ。だから今の要二には、僕を笑う権利があるのだろう。
要二が藍山さんと保健室に行った後。教室には何とも言い難い、微妙な空気が流れていた。佐倉先生は授業を続けて、皆も表立って騒ごうとはしなかったけど。それでもヒソヒソと隣同士で話して、ほくそ笑むような人の姿は教室の所々に見ることができた。
どうして人の真剣な気持ちが、そんなにも可笑しいのだろう?
僕はその時の教室の雰囲気が、とても嫌いだった。
咄嗟に訊き返すこともできずに、藍山さんはそのまま保健室から去っていた。
ううん、きっと大した意味で口にしたことじゃないのだろう。藍山さんが僕に伝えたいことなんて、あるとは思えない。
伝えたいのは僕だけ。それができないから、ひたすらそのジレンマを小説にぶつけているのであって……。
「ハハ――お前、蛇に睨まれた蛙だな」
両方の鼻の穴に綿を詰めている鼻声で、要二は僕のことを笑った。藍山さんを前にしてオドオドしてた僕を、滑稽に感じたみたい。
少しムッとしたけど、文句は言えなかった。だって要二は、僕のできないことをしていたから……。
僕が藍山さんのことを――そして、要二が佐倉先生を気にかけていることは、この前の昼休みに話して互いにわかっていた。
対象は違っていても、少なくともその時点に於いて僕たちの居た場所は同じ。ちょっとだけ好きな人のことを匂わせたりして、僕はそれだけのことに無邪気に昂揚していたんだと思う。
だけど要二はその想いを、既に相手に伝えていた。しかも授業の真っ最中、皆の前で――だ。だから今の要二には、僕を笑う権利があるのだろう。
要二が藍山さんと保健室に行った後。教室には何とも言い難い、微妙な空気が流れていた。佐倉先生は授業を続けて、皆も表立って騒ごうとはしなかったけど。それでもヒソヒソと隣同士で話して、ほくそ笑むような人の姿は教室の所々に見ることができた。
どうして人の真剣な気持ちが、そんなにも可笑しいのだろう?
僕はその時の教室の雰囲気が、とても嫌いだった。