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金木犀
第1章 prologue
愛歩SIDE
「愛歩。また外してる」
「へっ…」
「いつもそこ外してんな?難しい?
パート代わろうか」
「い、いえ!大丈夫ですっ…
外さないように頑張ります」
「ん。」
ぽん、と頭に載った大きな手に
涙が溢れそうになるくらい嬉しい気持ちを抑え
先輩に向かって笑顔を向ける。
その後先輩は他の部員にも軽く声をかけていき
今のあたしのようにアドバイスを与えて
指揮台へと戻っていく。
「じゃあ、もっかい通して終わろっか。
愛歩、頑張れよ」
「はいっ!…、…!」
先輩、他にもアドバイスしてた人いるのに、
あたしにだけ…
こんな事で涙が出るくらい嬉しくて幸せで、
生きててよかったなんて、もっと頑張ろうなんて
思うあたしはバカなのかな。
先輩が呼ぶあたしの名前。
黒縁のレンズ越しにあたしを見つめる瞳。
少し掠れた独特の低い声。
ちょっとくせっ毛気味のふわふわした無造作な黒髪。
ときどき見せてくれる無邪気な笑顔。
大きめに買ったらしいセーターの裾から
ちょっとだけ出てる細くて綺麗な指。
トランペットを吹いてる横顔。
あたし達吹奏楽部を仕切る時の部長の顔。
少しの変化でも気付いてくれるところ。
間違えても、非難する事なく
優しく注意してくれるところ。