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はじめてをきみに
第3章 愛はやさしくない

「……ごめんね、茉由」


 おそるおそる、背中に声をかけてみる。茉由が、くるりと振り返る。心外そうな顔。


「どうして謝るの?」

「いや、昨日、いろいろとひどいことを……」


 まさか覚えてないのか? 茉由は酔ってたし、激しくしすぎて記憶が飛んでるとか……、


「ああ昨日ね。激しかったねえ。えへえへ」


 ……そんなこともなかった。


「怒ってないの?」

「怒ってないよ」

「引いてないの?」

「引いてないよ」


 不安を隠せない俺の声に応じる茉由は、にこにこ笑っている。

 あれ、あれ、なんか思ってたのと反応がちがう。俺は戸惑っているんだか安心したんだか自分でもよく分からなくて、とりあえず思っていることをぜんぶ言うことにした。


「あの、俺、茉由が好きだよ。本当に」

「うん」

「大事にしようと思ってるんだよ。本当に」

「うん。大事にされてますよ」

「でも昨日……」

「昨日のはね、ヒロくん」


 茉由はそこまで言って、目玉焼きを焼く火を止めた。そしてこっちへ歩いて来て、ベッドの縁に腰かける。じっと茉由を見つめる俺の手を、小さな子供のそれを握るみたいに両手で取って、彼女は星のような声でつぶやいた。


「昨日のは、独占欲っていうんだよ。私が、あなたにずぅっと抱いてて、今も抱いてる感情だよ」


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