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はじめてをきみに
第3章 愛はやさしくない

「茉由」


 俺は、俺のを握っていた茉由の手を取って引き寄せ、唇にキスをした。ぴちゃぴちゃといやらしい音を立てて夢中で貪り、舌と舌を擦りあわせて、甘い唾液を味わう。

 ――ごめんね、茉由。幸せそうに俺の髪に指を差し入れて、くしゃくしゃって優しくかき乱すその柔らかくて小さな手が、かわいくて、いとおしくて、もう、壊してしまいたくて、どうしても優しくできないんだ。

 今だって、その華奢で小さくて弱い身体を、噛んで揺すって抱き潰して、めちゃくちゃにしてしまいたいんだ。こんなのははじめてで、茉由にだけ。好きなんだ茉由。本当に好きで、なのに本能はどこまでも乱暴で、こんなのとんだ矛盾だ。

 そう思ったのは、理性の俺だ。頭の隅でそれを黙って聞いていた本能の俺が、すぐに打ち消す。

 ……矛盾? ちがうな。正しいのはこっちのほうだ。これが「好き」という気持ちの丸裸だ。本気じゃないから、どこまでだって優しくできるんだ。誰も好きじゃなかったから、誰にでも優しくできたんだ。

 お前は、優しいだけ。優しいだけの、からっぽな人間だった。でも気づいただろう。茉由を好きになって、人を本気で好きになって、お前はいま、初めて知ったんだ。


 愛は、優しくない。



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