この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛しては、ならない
第42章 最初で最後の……
『剛さんね……うわ言みたいに、菊野さん、どうして……って繰り返してたわ』
花野の言葉に、心臓を鋭利な刃物で切られたかのような痛みをおぼえ、呼吸が一瞬出来なくなった。
――ああ、やっぱり彼は傷付いている、私の仕打ちに。
彼に何もかもを許しておいて、いきなり突き放して――
でも、私はどうすれば良かったの……?
彼に恋を告げられ抱き締められ、堕ちてしまう前に、彼を全力で拒み、いっそのこと死んでしまえば良かったのだろうか。
二人の恋人の時間は、この上なく幸せで、嬉しかった。
でも彼を突き放してしまった今、彼は深く傷付いて、私も堪らなく苦しい。
彼はまだ若い。
たとえ傷付いても、時間が、これから彼に訪れるであろう出会いが、彼を癒してくれるだろう――
そう考えていた私はなんて思い遣りのない、浅はかな女だろう。
彼は私の事が引き金となって、不幸な過去の悪夢を思いだして苦しみ始めてしまった……
『私の……せいだわ』
涙が手の甲に落ちた。