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愛しては、ならない
第42章 最初で最後の……
彼は、小さな男の子を真ん中に挟み手を繋いで歩く親子連れを見て小さく笑った。
その時、風が吹き栗色の前髪が揺れ、彼の憂いを含んだ瞳が顕になり、私の胸が詰まった。
「自分の家が普通なんだって思ってましたからね、小さな頃は。他を知らないし……
まあ、不便なんかは感じた事はないですし、寂しいと思った事もないですけど……て、菊野さん?」
「……うう……っ」
私は涙を堪えていたが、とうとう目から溢れてしまう。
昨日から泣いてばかりだ。
涙腺が決壊してしまったままなのかも知れない。
彼が呟いた、おかあさんと言う言葉は、やはり寂しさから来ているのだろうか。
彼は平気そうにしているけれど、人の心の中は窺いしれない。
深い傷と空洞を彼は持っているのかも知れない。