この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛しては、ならない
第42章 最初で最後の……
彼が私を見詰める目が一瞬強く輝いたが、何処からか青い風船がゆらゆらと飛んできて、二人の背中側にある木の枝に引っ掛かる。
私も彼も何となく風船の動きを目で追っていたら、小さな女の子が泣きながら走ってやって来て、風船を指差した。
彼は女の子に笑いかけて、小さく頷くと腕捲りをして、足踏みをしてから高くジャンプして風船の紐を掴んだ。
「はい……大事な物は手から離しちゃダメだよ」
泣きべそをかいていた女の子は、彼が風船を渡した途端に溢れんばかりの笑顔になり、何度も彼に手を振りながら母親の元へと走っていった。
彼は暫く女の子の姿を目で追っていたが、ふと小さく呟いた。
「風船ひとつであんなに嬉しそうな顔が出来るなんて、いいね」
「森本くん……?」
「菊野さん」
彼は振り向き、私の手を取った。