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愛しては、ならない
第43章 こわれる
タクシーに揺られながら、彼は景色を見て思い出したように言う。
「剛、具合どうなんですか」
「……っ」
剛の話を振られ、顔がひきつってしまう。
彼にはそんな私の気持ちがお見通しのようで、少し身を乗り出してきた。
「何か、あったんですね」
「……」
「僕が言うのも変ですけど……菊野さんには幸せになって欲しいです」
「森本君?」
「まあ、その幸せって言うのが、菊野さんにとってどんな事なのか……
正直僕にはなんとも言えませんけど」
「私にとっての幸せ……」
彼の言葉に、私の胸の真ん中に突然大きな疑問が沸き上がる。
私は、剛に幸せになって欲しいと思っていた。
小さな頃から、ふたごのジョンとマルコを私が幸せに、笑顔にしたい、と思って、いつかふたごの男の子を育てて――
と、夢見ていた。
でも、私は自分の幸せが何なのか、と改めて考えると、何も答えが出ない。
優しい悟志という夫、可愛い息子。
それを手にしている自分は幸せなのだと思っていた。
でも、だったら何故自分は剛に恋をしたのだろう?
――それだけで貴女は足りなかったの?
花野の言葉が頭に過る。
そうだ。
私は足りなかったのだ。