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愛しては、ならない
第2章 十年振りのバースデーカード
colorful brightの演奏が既に始まり、客達が腕を振り上げたり肩を組んで踊ったりしている側をすり抜けて俺はあの女(ひと)の姿を探した。
菊野……
菊野……!
心の中の想いを、実際に口に出して叫びそうになった瞬間、不意に後ろから肩を叩かれて頬に冷たい物が触れた。
「飲むか?」
祐樹がニコニコしてビール缶を二つ持ち、一本は俺の頬に押し付けている。
「……ああ、サンキュ」
今日四本目のビールを喉に流し込みながら、視線を会場にさ迷わせた。
「誰か捜してたのか?」
祐樹に言われ、俺は首を振った。
「いや……何も」
彼女が、菊野がここに来る訳がない。
もし居て、会ったとしてどうなると言うのだろうか。
菊野は、今俺の隣でビールを飲んでいる祐樹の母親であり、俺の義理の母親。
……そして、俺が初めて心から愛したただ一人の女だった……