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愛しては、ならない
第44章 こわれる ②
祐樹は彼女に飛びきりの可愛らしい笑顔を向けるが、俺の袖を強く引っ張り性急さが滲む声色で小さく言う。
「剛……パパが待ってる」
「あ、ああ、そうだな……じゃあ、岬さん、また……」
濡れたタオルを持ち、どうしようかと一瞬迷うが、俺は祐樹に引っ張られながら彼女に言った。
「洗って返すよ。ありがとう」
「うん、西本君も、おうちの人、お大事にね――」
彼女は手を振り、舌足らずにそう言った。
その姿が見えなくなると、祐樹は俺から手を離して頬を膨らませ、怒ったような口調で言った。
「……具合悪いんだって?」
「ん?ああ……まあ、ちょっとな」
「俺が、あんな事を言ったからなのか?」
「――祐樹」
祐樹は足を止め、唇を噛んで俯いている。
その握られた小さな拳は僅かに震えていた。