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愛しては、ならない
第44章 こわれる ②
菊野の声が聞こえ、全神経が集中する。
悟志に何か言われて、少し笑い声をあげているようだった。
彼女が夫を見詰める姿を見たくなかったが、見たくないと思いながら視線は彼女の姿を探す。
悟志の右手は彼女の背中を抱いていて、時折いとおしげな眼差しを妻に向けていた。
彼は、やつれた風も感じられない、以前と変わらない悟志に見えた。
何もかもが俺とは違う。
健康的な浅黒い逞しい腕、太い首。
包容力を感じさせる太い眉に、優しげな瞳。
俺は改めて彼を見て、敗北感のような物を実感していた。
菊野は彼に寄り添いながら、何かを話し掛けられ、可憐に笑う。
その笑顔に、俺は胸が抉られる痛みをおぼえた。