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愛しては、ならない
第45章 小さな逃避行
俺は本気で困っていた。
大人しいと思っていた夕夏の素の顔を知って戸惑ったのもあるが、俺は彼女の事を好ましいとも思い始めている。
彼女が怒っているのを見るのも正直面白いが、今日一晩ここで二人で過ごすのに、この妙な雰囲気のまま、と言うわけには行かないだろう。
「いや……そんな事はない……けど……」
俺は夕夏を刺激しないように言葉を選んだつもりだった。
だが彼女はキッと睨み付けて来る。
「けどっ?」
「……俺にそういう対象に思われても、岬さんは困るんじゃないか」
「そんな事は、私が決める事よ」
「え……」
彼女は何か重大な決心をしたかのように真剣に思い詰めた瞳を俺に向け、猫の様な仕草で俺に近付いてきた。
その瞳から顔を逸らせず、息も出来ずに固まっている俺の手に彼女の手が触れようとしたその瞬間(とき)、けたたましいベルの音が部屋中に大音量で響き、驚いた彼女と俺は飛び退く。