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愛しては、ならない
第45章 小さな逃避行
その後、シャワーを借りた俺は、洗面所で夕夏に寄越された新品の男物のパジャマに袖を通しながら、これからどうするべきなのかを考えた。
衝動的に飛び出してしまったが、菊野は心配しているだろうか?
いや、もしも『居なくなって丁度良い』――等と言われていたとしたら……
瞬間、寒気が襲うが、彼女は少なくともそんな冷淡な人ではない、と思い直す。
俺との恋を捨てたとしても、彼女は俺自身を見捨てたりはしない筈だ。
『剛さん……』
菊野の柔らかく甘い声が聞こえた様な気がしてビクリと振り返るが、目に映るのは夕夏が居る部屋へ続く磨りガラスの嵌め込まれた茶色いドアだ。
俺は、何処までも彼女の事が頭から離れない自分が可笑しくてクスリと笑うと同時に、大きな疑問が沸き上がる。
――菊野は、俺との恋を捨てて、俺にどう接するつもりなんだ?
息子として?
以前の様に、あの家で彼女の息子として、祐樹の兄として暮らせと言うのか?