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愛しては、ならない
第45章 小さな逃避行
悟志が目覚めた今、彼はあの家に戻ってくるだろう。当たり前だ。西本家の大黒柱であり、菊野の夫で祐樹の父なのだから。
菊野の夫――
その言葉がとてつもなく重く、苦く俺に迫る。
彼女と彼が仲睦まじく寄りそうのを、あの家で暮らし始めた時から俺は見ていた筈だ。
だがもう、あの頃の様に平静な気持ちで二人を見る自信がない。
気持ちを抑え、装う事はもう不可能だ。
俺は愛しているんだ。菊野を愛している。
彼女に拒絶されて、もう二度と触れるなと言われても、この気持ちを消す事など出来ない。
少なくとも今はまだ無理だ。
今まで通り四人で暮らそうとしても、以前と同じにはなれない。菊野と愛し合ってしまったあの時間を消す事など、もう……
やるせなさに溜め息を吐いた時、夕夏にノックされた。
「西本く――ん、もう着替えた?」
「あ、ああ、ありがとう」
俺は無理矢理な笑顔を作り、ドアを開けた。