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愛しては、ならない
第47章 埋まらない溝
『う……うん、ごめんなさい……今……泣き止むから』
「……はいはい……頑張って」
森本は、苦笑しながら彼女が懸命に涙を引っ込め、嗚咽を止めようと奮闘している姿を想像する。
電話で声を掛けるしか出来ないのがもどかしい。
今、目の前に居たなら、包み込む様に抱き締めてやれるのに――と。
何秒か待つと、菊野が息を吸い込むのが聞こえた。
『つ……剛さん……が』
「剛が、どうかしたんですか」
いつの間にか森本から離れ、服を直していた清崎は、顔色を変える。
『剛さんが……っ……』
清崎は再びベッドへ上がり、彼の隣に座る。
森本は、そんな彼女の頭をそっと撫で、菊野に続きを促した。
「菊野さん、ゆっくり」
『あのね……剛さんが……居ない……の』
「居ないって……」
『……病院から……何処かへ行ってしまったの』
清崎が、手を口に当てて目を見開いた。
森本は、菊野が感情的にならないように、努めてゆっくりと話す。
「僕の所には、連絡はありませんけど……」
『……真歩が……ああ……いつか家で森本君も会った事があるわね……
真歩がね、同じくらいの年頃の女の子と自転車で走っていったって言ってるの』
「女の子と?」