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愛しては、ならない
第47章 埋まらない溝
「は……るか」
彼女は去り、伸ばした手は何を掴むこともなく、やがて重力に従い降ろされる。
耳の中に、胸の奥に彼女の言い捨てた言葉がこだまして、彼を俯かせたが、のんびりと感傷に浸る時間はない。
彼は繊細な長い指先で素早くメールを打った。
ベッドに身体を投げ出して、スマホを脇に置いて考えるのはやはり菊野の事だった。
夫が目覚め、彼女はどうするのだろうか。
剛が行方をくらませたのも、やはりその事が関係しているのかも知れない。
自分も、かつては父の愛人に恋して深い関係になった経験があるから、剛の複雑な心境や立場も少しは分かる様な気がする。
だが、森本が彼に助言など甚だ迷惑で、大きなお世話だろう。
大体が、常識や理性で解決できる事でもないだろう。