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愛しては、ならない
第50章 それぞれの決別②
喉の奥が焼ける様に熱くて痛かった。
一刻も早く電話を切ってしまいたかった。菊野の辛そうな息遣いと掠れた声をこれ以上聞きたくない。
それに、酷い言葉を彼女にぶつけてしまうかも知れない――そうなる前に。
「菊野は悟志さんの家族じゃない……菊野の方が、悟志さんの事を良く分かってる筈でしょう?
とにかく……しっかりしなさいよ……泣いてても何も変わらないわ……
ごめん、あんたの事は好きだけど、暫く距離を置きたい……
私も一人で考える時間が欲しいの」
『真……歩』
震えるか細い声が、真歩の心の奥を悲しく抉った。
真歩は泣いてしまいそうなのを堪えて、絞り出す様に声を出した。
「悪いけど、剛さんの家庭教師も辞めるわ……誰か他の良い人を紹介するから……」
『……』
「ごめん……少し、時間を頂戴」
『真歩……っ』
「頼むから……ごめんなさいとか言わないでよね」
『……!』
「別に、喧嘩してる訳じゃないんだからさ……」
『真歩……真歩おっ……私――』
電話の向こうで、多分菊野はグシャグシャに泣き崩れているのだろう。目に浮かぶ様で、真歩まで泣きたくなるが、歯を食い縛り耐えた。