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愛しては、ならない
第52章 最後に、もう一度だけ
その温もりと薫りに包まれ、我を忘れてしまう。
ずっと欲しくて欲しくて堪らなかった、貴方の腕。その熱い胸。
一瞬でも見詰められたら自分の心の奥底まで蕩けて、私自身が無くなってしまうのではないかと思わせる、貴方の瞳。
欲しがってはいけないのに。もう、貴方を求めてはいけないと、決めた筈なのに。
「剛さ……ん……」
彼の胸に顔を埋め、背中に腕を廻そうとした時、身体を包んでいた腕は呆気なく離れた。
伸ばした腕は行き先を無くして虚しく空を掴む。
剛は、苦い物を吐き出すかのように呟き、背を向けた。
「……すいません」
「剛さん……今まで……何処に?
し……心配したの……よ」
「……」
「ま……真歩が……剛さんがっ……女の子と一緒だった……て」
「……それは」
落ち着いて話そうと思うのに、唇が震え、胸は痛い程に高鳴り、涙が次から次へ溢れてくる。
振り返った彼は何かを言おうと口を開くが、私を見て目を見開き絶句した。