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愛しては、ならない
第52章 最後に、もう一度だけ
剛は顔を歪め、私の涙を拭った指を離すと、また残酷な言葉を突き刺してくる。
「……彼女も、貴女がそうだったように、甘い声で啼いてしがみついてきて……」
「……や……やめて」
耳を塞ごうとする手を、彼が掴み、薄く笑ってゆっくりと言った。
「菊野さんとのセックスの経験が……昨夜はとても役立ちました」
私は、渾身の力で彼の手を振り払い、彼の頬を打った。
彼は、切れた唇を拭おうともせずに私を見詰め、悲しげに瞳を潤ませると少し俯く。
「……俺には……貴女が分からない……
あんなに俺を……愛してくれたのに……」
「も……もう……黙って」
彼を打った掌がジンジンと痛んだ。彼はもっと痛いのだろうか。私もこんなに痛くて涙が溢れるのに。
胸も、目の奥も、身体中が痛かった。