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愛しては、ならない
第52章 最後に、もう一度だけ



大好きな涼やかで低い声で囁かれ、思わず頷いてしまいそうになる。




――剛さん……剛さん……
貴方が願う事なら、何でも叶えてあげたいと思っていた。
初めて、あの希望の家で貴方を見つけた時から……
烈しく、優美に、流麗な旋律をその指が奏でるのを聴いて、私は心を揺さぶられた。
貴方の、何処か全てを諦めたかのような寂しげな瞳に惹かれた。
その瞳を、その顔を、喜びで一杯にしてあげたいと思った。
貴方が望む事なら、何でもしてあげたいと……思ったの……

そう……でも、貴方を愛する事は出来ないけれど……

他に、貴方が望む事があるなら。

本当に、貴方が望む事なら――




剛は、腰を廻しながら私の耳元に唇を寄せて囁いた。




「お願いします……俺の言うことを……聞いて下さい」

「……っ」

「……俺を……この家から……解放して下さい……っ」

「つ……よし……さ」







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