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愛しては、ならない
第52章 最後に、もう一度だけ
彼の瞳に涙が浮かぶのを認めた私は、彼の頬に手を伸ばして触れた。
――貴方が今望むのは……この家から出ていく事……
私から去っていく事……
そうなのね……?
それが……貴方の望みなのね……?
彼が瞼を閉じると、溢れた涙が煌めく。
それは私の頬を伝って、唇に堕ちてきた。
その涙は塩辛く、苦く口の中に残った。
私が流した涙も、彼が流した涙も多分同じなのだ――
「菊野っ……俺は……貴女を――」
「――ああああっ!」
彼が何か言い掛けたその瞬間(とき)、二人は果てて崩れ落ちた――